犬猫を多頭飼育する際の注意点
複数の犬や猫と暮らすことで、にぎやかで楽しい日々がおくれます。それぞれのペットが持つ個性やしぐさ、異なる種類の動物同士が仲良く遊ぶ姿は、癒やしと喜びをもたらしてくれるでしょう
一方で、多頭飼育ならではの気をつけるべき点もいくつか存在します。本記事では多頭飼育を検討する際に押さえておきたいポイントやリスクについて解説します。
多頭飼育の注意点
4つの注意点
- 飼育管理が複雑化する
- 経済的負担が大きくなる
- 騒音や衛生面でのトラブル
- 予期せぬ繁殖と頭数増加のリスク
1. 飼育管理が複雑化する
1頭であれば対応できたしつけや健康管理も、頭数が増えるほど難易度が上がります。ペットごとに性格や体調は異なるため、食事やトイレ、散歩のスケジュール管理など、チェックする項目も増えてしまいます。
2. 経済的負担が大きくなる
フード代や医療費、ワクチン接種、不妊去勢手術の費用、ペットホテルの利用料金など、飼育する頭数が増えるほど出費もかさんでいきます。また、年齢や健康状態によっては医療費が高額になることもあり、「今後10年以上継続して費用を負担できるか」を慎重に検討することが重要です。
3. 騒音や衛生面でのトラブル
犬の場合は複数の鳴き声、猫の場合はマーキングやトイレの衛生面など、飼育頭数が多いほど近隣とのトラブルが起きやすくなります。特にマンションやアパートでは、管理規約を守るだけでなく、防音対策やこまめな掃除などを徹底する必要があります。
4. 予期せぬ繁殖と頭数増加のリスク
不妊去勢手術を行わない場合、意図せず繁殖が進んで短期間で頭数が一気に増加する恐れがあります。経済的・管理面の負担が急激に大きくなると、最悪の場合は飼育崩壊につながる可能性も否定できません。
多頭飼育を始める前にチェックしておきたいこと
5つのチェックポイント
- 家族や周囲との話し合い
- 経済的・時間的な余裕を再確認する
- 住環境やスペースの確保
- しつけと社会化の重要性
- 不妊去勢手術と健康管理
1. 家族や周囲との話し合い
多頭飼育は同居する家族やマンション・アパートの管理組合、近隣住民などにも影響を及ぼします。増やす予定のペットの種類や特性、サイズなどを考慮し、負担がどの程度予想されるかを周囲としっかり話し合いましょう。家族全員で協力し合える体制づくりも大切です。
2. 経済的・時間的な余裕を再確認する
ペットが増えると食費や医療費だけでなく、不妊去勢手術やワクチン接種、定期健診、予期せぬケガや病気の治療費なども大幅にかかります。さらに、散歩やトイレ掃除など日常的なケアに割く時間も増えるため、「最後まで責任を持って世話ができるか」をあらためて検討しましょう。
3. 住環境やスペースの確保
複数の犬を飼う場合は散歩や運動できる場所、複数の猫を飼うなら十分な数のトイレや上下運動ができるスペースなど、頭数に応じた住環境を用意する必要があります。部屋が狭すぎたり、ペットの体格や習性に見合わない住居では、ストレスやケンカの原因にもなりかねません。
4. しつけと社会化の重要性
多頭飼育では1頭ずつに行き届いたしつけをすることが難しくなる場合があります。特に子犬・子猫の社会化期には、適切なトレーニングが必須です。しつけの不足は問題行動の対処が困難になるだけでなく、ほかのペットや人への被害が大きくなる恐れもあります。
5. 不妊去勢手術と健康管理
多頭飼育をするうえで最も重要な要素の一つが、不妊去勢手術の実施です。望まない繁殖を防ぎ、頭数が予想以上に増える事態を避けるためにも手術は早めに検討しましょう。また、ワクチン接種や定期健診、寄生虫予防なども欠かさず行い、ペット同士が病気を移し合わないようにすることが大切です。
飼育放棄や飼育崩壊
多頭飼育で最も深刻なのが飼育崩壊です。飼い主が経済的あるいは身体的な理由で十分なケアをできなくなり、ペットが不適切な環境で増えてしまうケースは後を絶ちません。こうした事態を防ぐためにも、事前準備を徹底し、もし飼えなくなったときの相談先や譲渡先を検討しておくことが重要です。
多頭飼育を行う際に心得ておくこと
- 現状を的確に把握する
- ルールとマナーの順守
- 困ったときは専門家や行政に相談する
- 終生飼育の責任感を忘れない
1.現状を的確に把握する
先住ペットの性格・年齢・健康状態を見極めたうえで、新たに迎えるペットとの相性を考慮しましょう。特に高齢ペットや持病のあるペットがいる場合、飼い主の負担は想像以上に大きくなる可能性があります。
2.ルールとマナーの順守
鑑札や注射票の装着、狂犬病予防注射など法律や地域ルールに基づく手続きを忘れずに行いましょう。集合住宅では規約を厳守し、近隣へ迷惑をかけないように騒音や清掃管理を徹底することが基本です。
3.困ったときは専門家や行政に相談する
多頭飼育で問題が生じた場合は、専門家や獣医師、行政機関、動物愛護団体などに早めに相談しましょう。アドバイスをもらうことで解決策が見つかる場合も少なくありません。飼育放棄や飼育崩壊は飼い主にもペットにも深刻な影響を及ぼすため、事態が深刻化する前にサポートを得るようにしましょう。
4.終生飼育の責任感を忘れない
多頭飼育に限らず、ペットは自分で暮らす環境を選べません。年齢を重ねると病気や認知症を発症することもあり、世話はさらに大変になることが考えられます。最後の瞬間まで愛情を注ぎ続ける覚悟を持ったうえで、多頭飼育を検討してください。
まとめ
多頭飼育は、にぎやかで楽しい日常やペット同士の可愛いやりとりを楽しめる一方で、経済面や時間的負担、近隣とのトラブルや飼育崩壊などのリスクが高まります。大切なのは、「ペットを増やしたい」という気持ちだけで安易に決断するのではなく、飼い主としての責任や管理能力をしっかり見定め、家族や周囲の協力を得ながらペットが安心して暮らせる環境を整えることです。
ペットを守り、その健やかな生活を最優先に考える姿勢を持つことで、多頭飼育は初めて意義あるものになります。不安を感じる点があれば、獣医師やトレーナー、行政などに相談し、解決策を探りましょう。
参考:環境省「もっと飼いたい?犬や猫の複数頭・多頭飼育を始める前に」
執筆:上森 (愛玩動物飼養管理士1級,ペット栄養管理士)